トピックス

2021/07/19
事業開発支援

「100年後のありたい未来のために、今を創る」その想いから、昨年法人化した「10decades」。まずは10decades メンバーとかねてからゆかりがある神奈川県小田原市で事業をスタートした。10decadesの考える「100年後に残したい未来」の中には、農業や里山の暮らし、食、工芸品、風景など、さまざまな切り口が包含される。地方の人口減少に歯止めをかけ、地方を活性化させる「地方創生」というよりは、自然との共生や代々受け継がれてきた地域の良さを、未来に持続させていきたいという意味合いが強いという。

元々、ジバ観(※)のファシリテーターとして地方創生に携わってきた3人のメンバーが10decadesに集う。ジバ観で日本の各地を訪れ地域づくりに伴走する事業はやりがいや楽しさもあったが、コロナ禍の中で出張や対面の制限が強まり、人を集めて取り組みを進めていくことの困難さにも直面した。「自分たちが何をしたいか、一から考え直したい。」その想いのもと、新事業の立ち上げを決意。そして、10decadesメンバーと親交があり事業化の想いに深く共感したGEMSTONE代表の深町が名乗りをあげ、GEMSTONEが事業づくりの伴走支援を行うこととなった。

(※)ジバ観とは、その地域ならではの力(地場)を活かし、地域内外の人を惹きつける力(磁場)を持つよう、行政・民間・住民の協働を起こすことでつくりあげる、「観光ジバづくりのための協働チーム育成研究」のことで、リクルートとの共同研究。

【10decades メンバープロフィール】

荒川 崇志
長友 まさ美
平澤 勉

ゼロベースで事業を生み出すことの大変さ

事業アイデアを形にするまで大変だったというが、伴走者(ファシリテーター)はどのような役割を果たしたのか。

「ジバ観では、私たちがクライアントの伴走をしていましたが、今回初めて自分たちの事業づくりに伴走してもらうこととなり、伴走者の大切さを実感しました。3人で議論している中で壁にぶつかった時、伴走者であるファシリテーターが違う角度から問いを投げてくれたことで新たな発見が生まれるなど、伴走者のありがたみを感じましたね。また、自分たちの強みを意図的に問いかけてくれることで、改めて強みを確認できたのも良かったです。その中でも、3者で事業を興す時に、無理に1つに絞らなくて良いという意見は私たちにとって転機になりました。誰かが旗を振るのではなく、3者それぞれがやりたいと思う事業を立ち上げ、お互いにシナジーを生みながら一つの法人の中で形にしていくというアイデアに繋がりました。」

あるメンバーは、「GEMSTONEのコーチが2人いたことと、時に2人の意見が全く違うのが良かった。」と話す。コーチが2人いると、意見の方向性が異なることもある。しかし、2人のコーチが異なる意見を出すことで、多くの観点を手に入れられることが、10decadesのメンバーにとっては、重要なのだという。コーチたちの率直な意見を聞きつつも、自分たちで方向性を模索できたことが良かったという。

想いを体現する事業アイデア

伴走支援を通して、いくつかの事業アイデアが形になってきた。

1つ目は、「農家のかぞく」。農家と消費者ではなく、農家を「かぞく」のような関係性で応援する。たとえるなら、親戚に農家がいて、休日に遊びに行ったり、一緒に収穫作業をしたり、たくさん収穫できたらおすそ分けしてもらったり。そんな、温かい関係を築くイメージだ。私たちは普段スーパーや八百屋で買い物をする際、少しでも傷がなく見た目のきれいな野菜か、安い 野菜をつい選んでしまう。結果、少しでも傷のある野菜は売れ残り、そのまま廃棄されてしまう。また、そもそも店頭に並ぶまでに、傷があったり形が変な野菜は規格外野菜として取り除かれている。「農家と『かぞく』の ような関係を築いたり、実際に農業体験を通して農業の実態や農家の苦労を知ったりできれば、見た目ではなく、安心・安全で作り手の想いを感じながら味の良い食材を選ぶことが出来るようになり、おいしく楽しく食べられる」そんな想いの元、「農家のかぞく」という事業が形になった。


2つ目は、梅の商品開発だ。数年前から平澤、荒川も小田原で梅農家を営む。そんな中感じてきたのは、農家の高齢化と価格競争の激化だ。日本全体で高齢化が進んでいるが、農家も例外ではない。地域内でベテラン農家が長年頑張って守ってきた里山や農と食にまつわる技術や伝統を、地域内の新規就農者や地域外の都市部生活者と共に受け継ぎ、時代に合った新しい形や付加価値を持った商品として流通させていき、持続可能な仕組みを作っていく。


他にも、地域の農家と触れ合う機会を増やしたいという思いから民泊事業のアイデアが生まれている。まだ構想段階だが、「農家のかぞく」との親和性も高く、事業を連携させながら勧めていくことを考えているという。泊まることで、よりゆったりと里山で過ごせるようになり、地域の農家と触れ合う機会を増やせたり、夜は窓を開けて虫の声に耳を寄せたり、早朝の箱根や富士山の美しい眺めなど自然が身近な時間も経験できる。それが普段の生活を省みることに繋がったり、自然との調和や持続可能な未来の在り方に思いを巡らせるきっかけをくれたりするかもしれない。

第一期の伴走支援がこの4月で終了し、第二期ではいよいよ事業が動き出す。事業の方向性が変わっていくかもしれない。でも、「100年後に残したい未来を繋げていく」という想いはぶらさず、ゆっくりと着実に歩みを進めていく。


(文:鈴木麻由)