トピックス

2021/01/11
組織・人創り支援

「音楽」を通して、人生に楽しみを

介護施設向けのミュージックファシリテーションの様子。

ミュージックファシリテーション―――音楽を通して、場をつくる。「人が最期まで自分らしく生きられる社会をつくる」を存在目的に掲げるリリムジカがつくりだした言葉だ。

リリムジカの仕事は、介護を受けるご高齢者に対し、「音楽」を通して楽しみを見出し、自分らしく表現する場をつくること。場をつくることで、職員や家族などの周囲がその方の素敵な部分を見つけることにつながり、それがコミュニケーションにも良い影響を及ぼす。昔歌っていた懐かしいメロディーが流れれば、自然と口ずさむ。何をしても無表情だった方が、メロディーを聞いて笑顔になることもあるという。音楽を通して「楽しい」という感情が芽生え、日々の生活に張り合いが生まれる。

介護施設などを訪問し、演奏したり歌ったりする訪問演奏とは異なる。訪問演奏は一方的に音楽を聴いてもらうのに対し、ミュージックファシリテーションは、一緒に音楽を楽しめるよう、創意工夫しながら場を作り上げるからだ。また、リリムジカは「音楽療法」という言葉を用いない。QOL(Quality of Life)向上を目的とする場合、「健康に良いから」「これは治療だ」と言って音楽に参加してもらうよりも、参加者が意欲的に、心から楽しめる場を作る方が成果が大きく出ると考えるからだ。その他にも、「音楽療法」の定義が幅広く、その言葉を受け取る側の認識により、イメージにバラつきが出てしまうといった懸念もある。

「『自立支援』を『要介護度や認知症の有無にかかわらずその人らしい生活を考え実現することの手助け』と捉えた時に、音楽がきっとその役に立つ」その想いを胸に、ミュージックファシリテーター一人ひとりがプライドを持って、仕事に取り組んでいる。

2008年の創業以来、200ヶ所以上の介護施設で音楽の場づくりを提供してきた。しかし、2020年、創業以来のピンチがリリムジカを襲う。新型コロナウイルスの感染拡大により、訪問できる介護施設が半減した。このままでは、リリムジカ の強みを存分に生かしていた現場での場づくりが閉ざされてしまう。

新型コロナウイルスの影響だけではない。2019年に共同代表が一人抜けたことにより、組織体制も変化している。事業面では、オンラインでの音楽の場づくりや、新事業の音楽DVD制作・販売事業を立ち上げた。内部環境と外部環境の変化が重なり、組織としてどう進んでいくべきか、岐路に立たされていた。


危機を乗り越えるために皆の力を結集させる

「ピンチの今だからこそ、組織の在り方を再構築して、事業存続の危機を脱したい。よりしなやかで強い組織に生まれ変わらせたい」代表の柴田萌の強い想いをGEMSTONE代表の深町が受け取り、関係性・文化づくりのプロジェクトを立ち上げた。主軸となるのは、システムコーチング(R)。

システムコーチング(R)とは、2人以上の関係性を1つの相互に影響し合う有機体をシステムとみなし、その「関係性」をコーチングする組織開発の手法を指す。チームの未来創造や、文化づくり、課題解決など個別の多様な目的に対応する。

なぜ「関係性」が組織において重要なのか。それは、「関係性の質」が「結果の質」につながるからだ。関係性の質は思考の質に、思考の質は行動の質に、行動の質は結果の質に結びつく。

今回のリリムジカのシステムコーチングのプログラムは2020年11月から2021年5月までの約半年におよぶ。GEMSTONEの深町と山本恵果(京都ベースで人材育成事業を行うカーニバルライフの副代表)がプロジェクトのコーリードを担う。月1回の全体セッションを主軸に、チャット等での伴走支援を行う。参加するのは、リリムジカ経営・運営陣とミュージックファシリテーターのリーダー合わせて9名だ。

2020年12月11日。一人ひとりにヒアリングを行い、アセスメントを行った上で迎えたキックオフの全体セッション。「変容期におけるリリムジカの今とこれからをつくる」、そして「今後につながる土台・文化づくりを促進する」ことを目的として、「みんなでつくるリリムジカ ♪(仮称)」プロシェクトが、開始された。

事前のヒアリングを通して見えてきたのは、「リリムジカは変容の真っ只中にいるが、見える景色・状況はシステムの一人一人によってかなり異なっている」という現状。その上で、「組織が拡大した今、リリムジカは『専門家集団』と『チーム』のどちらか、どちらもなのか?リリムジカらしい在り方は?」という本来の姿に踏み込む問いがセッションの中でテーマとして投げかけられた。

現在、リリムジカには34名のミュージックファシリテーターがおり、現場となる介護施設へは基本的に一人で行く。一人ひとりがプロフェッショナルとして、責任感をもって仕事に取り組むことを強みとしている一方、コロナ禍での仕事の減少や組織のピンチに伴い、現状の方向性への危機感を抱いていた。会社の方向性が見えない?それは、誰がつくるのか?自分は何をするのか?チームとして向き合うとは、何をどう変えることなのか。コロナ禍での先行きの不透明さと相まって、一人ひとりの現状に対する認識が異なっていた。それぞれの現状認識を踏まえた上で、この危機をどう乗り越えていくか。


「最高の夢」と「最悪の夢」

「ハイドリーム」を全身で表現した時の様子。

セッションに用いたツールは、「各々がハイドリーム(最高の夢)とロードリーム(最悪の夢)を全身を使って表現すること」。組織を変えようとすると、変化に対する心理的抵抗が起きる。その心理的抵抗を乗り越えるためには、現状の姿(現状認識)と未来のありたい姿を共有することが必要だからだ。

各メンバーに一斉に表現してもらうと、ロードリームでは頭を抱えたり、机に突っ伏したり。「リリムジカがなくなってしまったら」という絶望感を表現した。反対にハイドリームでは、歌を歌ったり、笑顔になったり、抱きつく仕草をしたり。お互いを理解し、支え合うことを表現していた。

「ロードリーム」を全身で表現した時の様子。

その後、コーチ陣とメンバーとの対話の中で現れてきたのは、リリムジカが少人数だった時代の思い出。コーチングにおいて「神話の起源」と呼ばれるものだった。「当時は、専門家として自分の担当施設をひとりで担う仕事をしながらも、今よりも不思議とチーム感があった」「毎週顔を合わせていて、安心していた」「FT会(ミュージックファシリテーターが相互に学びあう研修会)でみんなと歌えるのが楽しかった」「鬼のローテーションで研修でのコツ交換や事例発表などに取り組んでいた」などなど。

そして、「自分は少し距離を置いていたけど、やっぱり会いたい!」「集まりたい」「できる形で会おう」「まずは、全員で、そして少人数で話す場も同時につくろう」。具体の行動へと話が展開されていった。「神話の起源」に繋がったシステムはとても地に足がついて、パワフルな姿をしていた。

現在のシステムの姿を認知し、システムの願いが立ち現れた1回目のセッション。2回目のセッションのテーマは「チームの存在目的を、改めて明らかにする」こと。2回目のセッションまでの間も、個別に伴走支援を行っていく。


コーチの紹介

深町 英樹
GEMSTONE代表、事業育成コーチ、 システムコーチ(R)
幼少期をパキスタンで過ごし、アジアの暖かさと格差の現実を見て育つ。大学卒業後、ビジネスを通した社会課題解決を目指し、ヤンマー(株)に入社。北米新規事業立ち上げ、米国駐在、本社経営企画などに従事。開発学・経営学留学等を経て、2015年より独立し、2017年より現職。国内と海外を両輪として、より良い未来を願う人や組織と共創し、事業づくりと組織づくりを両輪で行っている。国際基督教大学卒、アジア経済研究所開発スクール及びオクスフォード大学MBA修了。

山本 恵果
(同)カーニバルライフ副代表、CPCC、システムコーチ(R)
京都大学卒業後、京都市役所に入庁。市民のまちづくり支援、大学政策、伝統産業などを担当。組織と人の可能性を最大限に引き出すことこそが、人生の目的であると感じ、2020年4月よりカーニバルライフへ副代表として参画。組織のなかで語られていない声を引き出し、組織と人の変容にアプローチするため、上場企業からベンチャー企業まで幅広くシステム・コーチング(R)を提供している。米国CTI認定プロフェッショナル・ コーアクティブ・コーチ(CPCC) 、システムコーチ(R)。(同)カーニバルライフ 副代表


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システムコーチング(R)はCRR Global Japanの登録商標です。

第2回につづく


(記事執筆:鈴木麻由、深町英樹)