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2021/11/18
インタビュー

「自分を生かす」働き方、生き方を共に創る3ヶ月のプログラム”EMERGE”。プログラムを終え、自身に湧き上がる今の想いを聞いていくインタビューシリーズ。今回は第2弾に参加者の木村祐大さんに話を聞きました。

プロフィール  
名前:木村祐大
所属:某都内市役所職員
経歴:北海道室蘭市出身。室蘭大谷高等学校卒業後、中央大学法学部へ進学。地域文化振興と刑事政策を学ぶ。「アートと人が、よりつながる社会づくり」を志し、現在、市役所職員として文化政策に携わる。
年代:20代
※EMERGE 第2弾参加者

「公務員」と「アート」の二軸から良い社会をつくりたい

高校2年生の時、東日本大震災が発生しました。当時吹奏楽部に所属していて、それまでは数ヶ月に1回ほど地元の福祉施設などを訪問し演奏していたのですが、東日本大震災の発生を受けて、2週間に1回の頻度で地元の色々な施設を巡って演奏するように。その結果か分からないのですが、(震災発生から約半年後の)10月の文化祭での演奏会では、例年の倍近い約1,000名の方が私たちの演奏を聴きにきてくださりました。

この出来事を通して、音楽は人の心を元気づけたり、人や地域の絆を深めたりする力があることを実感し、音楽を含めたアートを通して、人や地域を元気づけたい、社会を良くしたいと強く思うようになりました。

大学時代所属していた、音楽サークルのOBOG演奏会の様子

そもそも「社会を良くする」ことに関心を持つようになったのは、小学生の時。当時社会科の授業が大好きだったこともあり、将来は社会を良くする仕事に就きたいと思い始めていました。両親に、どんな仕事に就いたら社会を良くできるのかを聞いてみると「公務員なら社会を良くする仕事ができるんじゃないかな?」と。その一言がきっかけで、小学生の頃から公務員を目指すように。

高校生の時にアートの持つ力を実感したものの、「公務員になる」という夢を諦めることはしませんでした。というのも、結局私がやりたいのは、「社会を良くする」ということ。それが公務員という立場からか、アートを通して実現するのか、というアプローチの違いだけであって、どちらか一本に絞る必要はないと考えました。その結果、「『公務員』と『アート』の二軸から、社会を良くしたい。」それが私の夢になりました。

「公務員」と「アート」と聞くと、異色の組み合わせのように思えるかもしれません。私自身、大学生の時に、両者は違いすぎるのにこのまま両方を目指していいのか、果たして両者は繋がっているのか、悩んだ時期もありました。その悩みが吹っ切れたのは、当時所属していた刑事政策ゼミの教授の言葉のおかげでした。

「地域の繋がりが強いほど、犯罪発生率が減少する。」教授のその言葉を聞いた時、アートの力で地域の繋がりを強め、それが犯罪発生率の減少に繋がるなら社会を良くすることに結び付く。「やっぱりこのまま両方を目指していいんだ」と確信しました。

アートを使って色々な人が自己表現できる場づくりを

無事公務員になり、幸いにも文化政策に関する部署に配属され、アートと繋がる仕事はできています。仕事に満足する一方、「アートを通して、『自分だからこそ』できることをしてみたい」という気持ちも芽生え始めていました。

そんな時に出会ったのがEMERGEでした。EMERGEは、自分のこれまで培ってきた経験や、元来持っている好奇心や価値観を、社会への価値に変えていくことを目的とし、講義やディスカッション、コーチングを通して自分の納得できる答えを見つけていく、3ヶ月間のオンラインプログラムです。

私は「自分が幸せだと感じられる方法で、アートと社会を繋げたい。EMERGEを通してその答えを見つけたい。」と思い、EMERGEへの参加を決めました。「自分が幸せだと感じられる方法」というのは、まず自分が幸せだと感じていないと、いくら社会を良くしようと思っても続かない。そう思ったからです。

自分にとって幸せだと感じられるアートとの向き合い方は何か。その問いに対し、プログラムを通して見えてきたのが、「アートを使って色々な人が自己表現できる場づくりをしたい」という答えでした。日頃、一生懸命頑張っていても「なんだか生きづらいな」とか、「自分なんて価値のない人間だ」と思ってしまう人も結構いると思うんです。

そんな人たちにアートを通して自分を自由に表現してもらう。アートに自分の想いをぶつけることで満足できる人もいれば、自分の作品を褒めてもらうことで、自分の存在そのものを認めてもらったように感じる人もいる。また、アートを通して交流することで、行き場のない孤独感が消えることもあるかもしれない。アートの可能性って無限だと思います。だからこそ、自由なアートの場を提供できるような、そんな場づくりをしたい。それが実現できたら、私自身の幸せにも繋がる。そんな答えを導き出せました。

感謝の気持ちを忘れない

「周囲にもっと感謝してみたら?」EMERGEでの中間発表の際に投げかけられた一言が、強く心に残っています。それまでの私は、たとえば「私はこんなに考えているのに、どうして同じように本気で考えてくれないんだろう」というように、自分の想いと周囲の感覚とのギャップを感じてしまい、憤りやもどかしさを覚えることもありました。

とある冬の、故郷の海

でも、その環境をマイナスに捉えるのではなく、プラスに捉える。そのためには、まず周囲や環境に感謝の気持ちを持つようにすれば、自然と「周囲と協力して何ができるのだろう」と考えられるようになり、今までとは異なる視点から物事を捉えられるようになります。この言葉を受けて「どうやったら自分が幸せになりながら、やりたいことを今の職場で実現できるようになるか」というように、前向きに考えられるようになりました。

EMERGEの参加者は、世代や立場もバラバラで、普通に生活していたら出会わないような人たちばかり。個性豊かなメンバーが揃っていました。全体セッションの中での誰かの何気ない一言も、人それぞれ解釈が異なり、「あの発言を受けて、こんな風に考える人もいるんだ」と、その違いが興味深く、面白かったです。

ファシリテーターの皆さんも、私たち参加者同士の化学反応を見ながら、柔軟にプログラムをつくってくれている印象がありました。そんな風に、枠にはまらないプログラムだったからこそ、自分と自然体で向き合うことができたのかなと感じます。

「表現者」×「場づくり」を体現していく

今は、創作活動と並行しながら、「場づくり」に携わることを考えています。EMERGEの参加者一人ひとりの顔を思い浮かべながら、一つの曲をつくりました。EMERGEの最終回でその曲を皆に聴いてもらった時、皆の驚いた顔や喜んでいる様子が本当に嬉しかった。

曲にかぎらず、写真や動画制作などを含め、自分がつくりだしたものを相手に届けることによって、ポジティブな影響を及ぼせたらいいなと思いますし、「表現者」としての自分をこれからも体現していきたいです。一方、自分が表現者となるだけでなく、相手が「表現者」となれるような場をつくることを通して、社会に還元していきたいです。

私にとって、EMERGEとは「空き地」でしょうか。某国民的アニメに出てくる、3本の土管がある空き地のイメージ。アニメの中では、登場人物たちが空き地に集まって、遊んだり、時にぶつかりあったりしながら一緒に成長していきますよね。参加者の皆、家(家庭)や職場といった居場所はあるけれど、バラバラのバックグラウンドを持つ人たちがふとしたきっかけで空き地に集まり、交流していたのがEMERGEだったと思います。今はEMERGEが終わって、皆自分の家に戻ることになりますが、これからも時々空き地に集まってお互いに交流できたらいいな、なんて思っています。

インタビュー・記事執筆(鈴木麻由)

EMERGEプログラムサイト